夏祭り はぐれぬようにつかまえた 浴衣の袖に踊る向日葵
祭囃子と喧騒に酔い、花火を見上げているうちに君が闇に消えてしまう。そんな不安に駆られたから。

どの季節よりも胸騒ぎを覚える夏の祭。見慣れない浴衣姿は例えようも無く可憐で、なぜか官能的でもあります。露店の灯りが非日常へと導く、期待と不安が交錯した最後の夏休みでした。


液晶の中で繋がる 擬似恋愛 パスワードさえ 忘れなければ
モニターの中の私は、名前も顔も知らない人が綴る文字の羅列に恋をしているのです。狂おしいほど。

メール恋愛が王朝の恋に似ていると思ったのは私だけではないでしょうね。逢ったこともないのに、リアルな人間よりも愛しくて、だからこそ逢うのが怖いと思うのかもしれません。


 

オリオンを 追いかけている帰り道 地球のせいで 遠ざかるのみ
宇宙の切れ端がどうしても欲しくて、走っても走っても、地球は僕を逃がしてくれない。

天文学に疎い私が唯一発見できるオリオン座は、澄んだ空気と漆黒の空の番人のように凛々しい星座です。彼の目に映る地球はきっと銀河の流れの一つにすぎないのでしょう。


 

手鏡の中で 乱るる黒髪も 朝日に溶ける 夢と思へば
髪に宿る魔力を知っていますか?古びた櫛をゆっくり通せば昨日の記憶が夢に変わってしまうと。

髪を染める事が当たり前となっても、黒髪の妖艶さにかなうものはありません。乱れるにまかせて眠り続けても、恋しい人の夢はなかなか見られるものではありませんね。


かたはらで 君が添ひ臥す月の夜に 肌に残るは 誰がぬくもりか
月光を背に君は眠る。何も知らない、知るはずもない。埋葬した過去が蘇る気配など。

かの在原業平公が詠んだかきつばたの歌(頭文字に『かきつばた』を詠み込んだ、あいうえお作文のようなもの)「から衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(伊勢物語)を参考に詠んでみた「涼女版かきつばたの歌」です。文字指定となると難しいものです・・・


にわか雨 突然の恋 午後の微熱 小さなテロは日常の中
退屈の丘にミサイルが投下されて、ほんの少しだけ私の世界が崩壊していく。

たかが一秒先に起こりうる出来事さえわからない。予期せぬ事態は日常と紙一重なのです。「また明日」と気軽に言うけれど、明日の生存率は決して100%ではないことをどれだけの人が自覚しているのでしょうか。


まだ消せない 消せるわけない 唯一の君が残した着信記録を
君が忘れても私が忘れても、この電話は憶えているから。二人の電波は確かに繋がっていたよね。

最近の電話番号交換は楽なものです。一方の番号にもう一方が発信すれば相手に履歴が残るから。最初で最後の着信になるぐらいなら、無理して教えてくれなくても構わないのに。社交辞令は嫌いです。


繁殖の意思もないのに 重ね合い 鏡越しには醒めたまなざし
逢うことが義務になる不安を打ち消すように抱きしめても、二人の身体はもはや抜け殻。

一体何のために一緒にいるのだろうか?付き合いが長くなるほどに先が見えなくなるものです。どうして人類は種の保存を目的とせずに互いを求め合うのでしょう。


海つばめ 浜を見下ろす高砂の松に寄り添ふ 幾年までも
年老いた松は小さなつばめに告げた。「お前が巣立つまでは眠ることはできないのだ。」と。

友人の祖父が末期の病に倒れました。孫思いのおじいさまは自分の病気よりも孫の事ばかり心配しています。「また海に釣りにでも行こう」そんな友人のささやかな望みが叶うことを願ってやみません。


 

缶詰の 賞味期限が切れる頃 世界は変わる 少しぐらいは
明けない夜はない。終わらぬ戦いもない。また陽は昇るだろう、そう遠くない未来に。

缶詰を裏返すと、近未来の日付が刻まれていました。今はこんな世の中だけど、いつか必ず平穏な時代が来ると思いたいです。争いの空しさに早く気づいて欲しい。


 
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