平成14年夏、いつものように書店で京都ガイドブックを立ち読みし、「今度はどこの変身店に行こうかな〜」と漠然と考えを巡らせる私の目は、とある変身スタジオの広告ページに釘付けとなった。その店の名は「時代や」。そういえば・・・と過去の遠い記憶を辿る。まだ高校生だった頃、友人と訪れた店である。友人は花魁、私はやはり女房装束を体験したのだが、衣装・メイクの質はともかく、マンションの一室のような狭い空間でいささか窮屈さを感じたのを覚えている。
その「時代や」が数年の時を経て移転・リニューアルし、新たなる企画を考案したというのだ。そのプランは「源氏物語プラン」。源氏物語こそが平安文化への憧れのきっかけとなった私は気がつけばその決して安くは無いガイドブックを購入し、早速「時代や」へプラン詳細を問い合わせてみた。
プラン内容は、読んで字のごとく源氏物語の登場人物の衣装を体験してみよう!というものであった。女性は物語内で玉鬘らが着ている「細長」、男性は当時の貴族の礼装である束帯か大君姿(詳細不明・写真を見る限り布袴姿か)を体験できるらしい。こちらのお店は普通の十二単の他に白拍子など平安系装束が充実しているのだけど、私はそれらの倍程度の金額を支払ってでもこのプランを体験したかった。
自分の中では99%実現する方向で話が進んだ。しかし、ここで唯一にして最大の問題に気づいた。光源氏役を誰にお願いするか。二人用のプラン故に避けて通れない問題に苦悩する私がスカウトしたのは「引き目カギ鼻」というまさに源氏物語絵巻から抜け出たような雅なお顔立ちのN氏。
装束にも源氏物語にも全く関心の無いN氏を説得するのは容易ではなかったが、高額の束帯ではなく直衣なら・・・との意見を頂き、私が妥協する形で交渉成立。後日談だが「サイトに乗せるならハンドルネームは『貴輔中将』が良い」とのたまうN氏。結構乗り気なのでは・・・?
こんな経緯があり、私とN氏改め貴輔中将様が上洛したのは9月中旬。目指す「時代や」は三条京阪の駅の目の前ですぐに見つける事ができた。先回訪れた時と比較して随分立派な店構えになっており、この京都での「時代衣装体験」がいかに人気を博しているかがわかる気がした。
この時点でかなり高揚し、テンション高めの私と、いささか不安げな表情の貴輔中将様は受付を済ませてプランの確認をした。パンフレットには一種類・紫のみしか載っていなかったが、細長はもう一種類・山吹色もあるらしい。こちらがまた華やかで良いのだけれど「源氏物語=紫の上=紫式部」などという単純発想の私は当初の計画通り紫を選択した。
下着に着替えてメイクに取り掛かる。こちらのメイクは「舞台風」であろうか。目尻を引っ張り上げてテープで固定するので誰もが切れ長の目になれるようだ。私の平坦な顔にアイラインやら描きこんでいる脇で、早くも貴輔中将様の直衣の着付けが始まっていた。期待に胸を躍らせていよいよ細長の着付けに取り掛かる。