装束に興味がある人なら誰もが知っているであろう、京都の風俗博物館。入館料のみで展示してある装束に袖を通し、等身大の平安時代セットで遊べるという素晴らしい博物館が平成16年の2月4日〜6月30日まで、西陣の「岩神座ホール」で出張展示を行った。展示の内容は、博物館でおなじみの細密かつ華麗な人形による「一条帝による土御門第行幸」(紫式部日記)、「明石の姫君の出産」(源氏物語・若菜)など雅な場面の再現であるが、なんと言っても見逃せないのが平安装束の着装体験である。
今回着装ができるのは狩衣・物詣姿(袿と市女笠)・女房装束の三種類。いずれも三時間じっくり楽しむ事が出来る上、館内には博物館同様に平安時代の貴族の邸を再現したセットや、天皇・皇族が乗ったという葱華輦(いつきのみや歴史体験館での体験記参照)も用意されているというではないか。そうと知っては行かずにはいられない。桜がほころび始めた3月の下旬、私は岩神座ホールへと出発した。
西陣界隈には何度か足を運んだ経験があるが、岩神座ホールという名は初耳であった。地図を頼りに入り組んだ細い道を進む。ガイドブックにも度々掲載されている西陣のスポット「織成館」の向かい側にある、注意していないと見逃してしまいそうな木造の建造物、それが今回お世話になる岩神座ホールであった。時間は朝一番の10時。私の他に人影は無い。やや緊張しながら玄関を開ける。ほんのりと立ちのぼる香の薫りと共に出迎えてくれたのは受付担当の中年男性であった。
三種類の装束のうち、狩衣と物詣姿は5000円で外出可能。女房装束は10000円で室内のみ。どちらが良いか一瞬迷ったが、私のように一人で体験する身にとって外出は少々勇気がいる。何人かいれば賑やかかつ華やかでイベントの一環、という雰囲気だがピンだと通行人の反応も「何あの人?」となる可能性が濃厚である。そんな結論に達し、私は女房装束を選択した。
着付け担当の方は気さくな若い女性であった。装束は常時6〜8種類用意されていて、少しずつ入れ替えがあるそうだ。私が一目で気に入ったのが白の表着に紫の唐衣、襲ねの部分も紫系統という上品な色合いの装束であった。早速着付けをしてもらっていると、風俗博物館の館長さん夫妻が登場!「皇后美智子様の装束を意識して選ばれたのかな?」と館長さんに訪ねられてうなずく私。館長さんいわく、白は皇后などの身分の高い女性がお召しになっていた色とのこと。そんな色を図々しくも選択してしまった私は恐縮したが、誰も咎める者もいないので良しとしようではないか。
こちらの装束は五衣の部分があらかじめ重ねられていて、唐衣と裳もつながっている他、長袴も歩行しやすいように足に紐で結び付けるような仕組みになっている等、着装の利便性を考慮して作られている。しかし、着てみると簡略されているとは思えないほど素晴らしいものであった。着付けが終わり持参したカツラを付け、女房装束の完成である。